フィリピンと山あれこれ(7)

最近、邦字紙「まにら新聞」に載った記事である。−1994年12月に大麻所持罪で死刑の一審判決を受けた鈴木被告の上告審で、最高裁判所は「刑法に基づいた適正な量刑は終身刑。一審は誤った刑罰を科した。」として、終身刑に減刑する判決を下した。被告は、逮捕から9年半で生活費や弁護費用に1千万円以上を使った。外国人の場合、刑務所で自動的に「VIP待遇」となり、有料の個室を割り当てられ、資力のない収監者二人の扶養を義務付けられる。(刑務所の配給食料の不足を補うための措置)三人分の食費、燃料、電気代も全て被告持ちで、1千万円の半分が生活費に消えた。

[注]

「まにら新聞」:フィリピンで発行されている日刊紙で、共同通信社のダイジェスト記事と現地紙の邦訳記事を載せていて、現地事情を知るには便利です。前回「フィリピンの女性」を書くに当たっても、参考にし(パクリ)ました。また、現地在住者の大部分が購読しているので、(まにら新聞に載ると思うと)悪いことはできない。なお、上記の「鈴木さん」事件は、日本人の友人に「はめられた」可能性が高いといわれている。

(1)センブラノ山・ルソン島中部(743m):1/5万図(Paete)その1

誰かが、この山を「サウンド・オブ・ミュージックの山」と称していたが、頂上一帯に広がる草原は、これまでの樹木に覆われた山とは違って、明るく開放的である。ただし、ジュリー・アンドリュース演じる主人公がいたヨーロッパの山とは違い、暑い日差しをさえぎる物もない頂上で踊るわけにはいかない。日射病になるのが落ちである。

マニラから東に一般道路をたどり、マリキナ川を渡れば、オルティガスさらにタイタイ町へと至る。ここから道は二手に分かれ、ラグナ湖の縁をたどるビナンゴナン町経由と、山手のアンティポロ町経由でタナイ町へと向かう。前者は平坦だが、距離が長く道も込んでいる。ここは、マニラの奥座敷として古い教会も残るアンティポロの町を抜け、急なカーブの連続する山岳コースを行くのもいい。どちらを通ってもマニラから1時間半ぐらいで、ラグナ湖畔のタナイ町に着く。しばらく走ると、道は左に曲がり、湖に突き出した半島を横断してパエテ町に向かうが、あくまで右手の道を湖畔沿いに進む。前方に半島中央部を占めるセンブラノ山のゆったりした姿が見えてくる。マニラから約2時間のところにあるマラヤは、車でさっと通り過ぎてしまうような町だが、そのはずれには火力発電所の巨大な施設が並び、送電線が山に向かって伸びている。

発電所の脇を抜けたところに古びた資材置き場があり、その奥へ道が続いている。車を降りて歩き出すと人家があり、犬に激しくほえつかれた。その家の女主人が出てきて、「山は危険だ。一人で山に登るなんてBrave(=勇敢?)だ。山に登るならば、まずバランガイ・ホール(町内会館)へ行け。」という。しかたがないので、運転手を呼び戻し、一緒にバランガイ・ホールへ行ってもらう。先程の町中に塀をめぐらしたバランガイ・ホールがあり、数人の町民がたむろしている。女主人がその中の一人に声をかけると、別室に案内され入山料を請求される。お心のままにということで、20ペソ(約40円)を差し出すと、喜んで受け取った。山のことを聞くと、「先日は高校生が60人ぐらい登ったが、今日は誰も登っていない。」という。さらに、「山は危険だ。案内はいらないか。」と聞いてくる。ここはおとなしくいうことを聞いた方がいいと思い、案内を請うと、バランガイ・チーフ(班長さんか?)を呼んできて、二人で頂上まで案内するという。

バランガイ・ホールを出て、少し発電所よりにいった道路の右側に「Domingga」という看板の店があり、その前を左に曲がると、突き当りが登山口だった。ここで車を降り、石ころだらけの坂道を登りだす。道の両側には人家が続き、中には飲み物を売ったり、中庭に休憩所を設けているような家もある。道脇に電線がめぐらされ山の中まで電気がきているのは、町に発電所があるせいか。だいぶ登ったところに空き地があり、家の前で家族が木のベンチに並んで座っていた。最初の案内者(仮にトップとしておく)がその家の娘をからかっている。さらに道は登っているが、右に降りて小さな沢を渡ると小平地に出る。ここには、人相の悪い男たちが3人たむろしており、バランガイ・チーフが一声かけて通り過ぎた。後できくと、違法伐採者で、時には悪さもするそうだ。しばらくは、林の中のゆるい登りが続き、バナナの木以外は人の気配もなくなってくる。前方に山が迫ってくると、突然、小滝の連続する沢が現れる。振り返れば、はるか下に発電所の建物が見える。ここから沢沿いの道を登ると、バナナの林の中に開けた幕営地に着く。傍らには、古い小屋が残り、沢へ下る道もついている。

[コースタイム]

マニラ 7:30−タイタイ 8:10−ビナンゴナン 8:40−タナイ 9:10−マラヤ 10:00〜10:35−幕営地 10:40 (Nov.15, 2003)

[注]

為替レート:為替変動に伴い、1ペソがついに2円を割りました。1ペソ=約2円です。

(2)フィリピンの裁判

次は、英字紙に載ったアンケート結果である。−マニラ首都圏の弁護士三百人に聞きました。

問「汚職裁判官の数はどのくらいですか?」

答「大変多い=7%」「多い=24%」「多少=32%」「少し=22%」「ごくわずか=7%」
問「裁判官へのワイロをどの程度弁護費用に含めますか?」
答「いつも=7%」「しばしば=18%」「時々=21%」「場合によって=14%」
「まれに/ない=10%」「無回答=30%」

フィリピンの裁判で、外国人に不利な点が3つある。

@裁判では、証拠ではなく、証言が重視される。

極端な話、身寄りのない外国人が殺され、誰も訴える者がいなければ、裁判以前に事件は終わってしまいます。申し訳程度の警察捜査では、犯人が挙がることもありません。「密告」でもされれば別ですが。、、、証拠はそろっているのに、有罪にできない。よくあるパターンです。証拠の価値が低いのか、それを裏付ける証言がないかぎり裁判所は取り上げません。まして、外国人のために身の危険を伴う証人になるフィリピン人がいるかどうか。疑問です。−フィリピン人妻に訴えられた日本人、妻の親族の証言は全て妻に有利。あなたなら勝てる自信がありますか。

A裁判には時間がかかる。

現在、下級裁判所の三分の一には、裁判官がいません。原因は、給料が低くて裁判官のなり手がいないからです。その結果、審理の多くがストップしている状況です。また、外国人は、裁判係争中の出国が停止されますので、その負担は大きくなります。@の証言重視に関連して、犯罪被害に合った外国人が出国してしまい、被告人が無罪になったケースもあります。この国の裁判は、全て当事者ベースなのです。(何回もいいますが、検察・警察は犯罪の立証には不熱心です。)

B裁判官も人の子である。

冒頭に挙げたワイロのことです。Aでも述べたように給料の低い裁判官は、「真実の追究」より、「誰からより多くワイロを取れるか」に走りがちです。「外国人=金持ち」彼らには、絶好のカモが来たと思われ、判決はしばしば外国人に厳しくなります。現在、アロヨ政権は裁判官の給料を倍増し、質の向上をはかっていますが、いつになれば、「清廉潔白な」裁判官といわれるようになるのでしょうか。

追伸

さて、この国の警察は何をしているのか。疑問を持たれた方も多いと思います。次回は、「あっと驚く」フィリピンの「警察」についてです。

E-mail: tepscom@info.com.ph

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