フィリピンと山あれこれ(3)

海外における安全対策のひとつに、「周囲の雰囲気に溶けこみ現地の人のように振舞うこと」というのがある。

−最近の出来事から−

その1。観光地として有名なマニラ大聖堂の前で、アベックにカメラのシャッターを押すように頼まれた。ただし、「タガログ語」で。−その2。会社の帰り道で、おばさんに道を訪ねられた。これもタガログ語で。なんで。この瞬間、私が密かに抱いていた、ネクタイを締めアタッシュケースを下げ、「マカティー」の街中を颯爽と歩く「外国人ビジネスマン」の自己イメージが遠のいていった。

[注]

「タガログ語」:首都マニラを含む中部ルソン島で話される言葉。タガログ語を基本にするフィリピノ語は公用語として広く使われている。ただし、後で述べるように、出身地のわからない人間、また、外国人に対して話されることはない。

「マカティー」:メトロマニラ(マニラ首都圏)に属する一市。中心部を貫くアヤラ通り沿いには、銀行、ホテル、ショッピングセンターが連なり、ビジネス、金融の中心地となっている。多くの日本企業もここに居を構え、たいがいの商談はここですまされる。

「外国人ビジネスマン」は、普通、車から降りて歩くことはないそうです。それは、@外を歩くと暑い。A交通マナーが悪く、信号もあてにならないので、道路の横断が危険。Bたまには、容易に誘拐される危険があるなどの理由によるようです。その意味では、おばさんの判断は正しかったようです。

(1)タール火山・ルソン島中部(311m):1/5万図(Lemery, Mendez-Nunez)

世界で一番小さい火山とも言われるタール火山は、火口湖とも言えるタール湖に浮かぶ小島にあります。タール湖の北側を画す外輪山の上には、タガイタイと呼ばれるリゾート地が広がり、マニラからの観光客、避暑客でにぎわっています。外輪山の一角を占めるPeoples Park in the Skyは標高750mにあり、背後にはマニラ湾とラグナ湖に挟まれるように広がるマニラの街を、前方には満々と水をたたえるタール湖と外輪の山々を望む景勝地です。タール火山は、標高が311mしかないために、ここからは、見下ろす形になりますが、それでも、その神秘な姿にひきつけられます。

マニラから、サウスハイウェーを30分ほど南下すると、カビテの平原が広がり、その中に外資系を含む工場群が立ち並びます。やがて、前方の丘が目の前に近づいてくると、道は上り坂になり、くだもの屋が軒を連ねるタガイタイの入り口にさしかかります。突き当たりの丁字路を左に曲がれば、その向こうにタール湖が望めます。タール火山に登るためには、一旦、外輪山を湖岸まで下り、そこから船で湖を渡る必要があります。船は、片側にアウトリガーの張り出したスピードボートで、かなりの速度が出るかわりに、波しぶきも盛大ですので、前のほうには座らないほうが懸命です。

15分ほどで、湖を渡ると、岸には大勢の人が待ち構えています。もちろん、観光客目当ての物売りもいますが、ここでの売りは、なんといっても馬です。タール火山の頂上までは、馬が人を運んでくれるのです。なかには、歩いて登る人もいますが、木陰の少ない山道を歩くのは、ちょっとたいへんです。もちろん、馬の上でも日には焼かれますので、帽子、長袖は必携です。さて、馬に乗って30分ほどで、頂上直下の休憩所に着き、タール火山に登れば、そこにも小さな火口湖があって不気味に静まり返っています。ふと道脇に目をやれば、暑い蒸気がふきだしていて、この山が火山であることを思い出させてくれます。

(2)フィリピンの言葉

フィリピンには、70余り(一説には100以上)の言語があり、そのうち有力なものだけでも、北部ルソンの「イロカノ」、中部ルソン、ミンドロ島、パラワン島で話される「タガログ」、南部ルソンの「ビコラノ」、パナイ、ネグロス、セブ、レイテ、サマール島とミンダナオ島の一部で話される「セブアノ」(「ビサヤ」ともいう)、ミンダナオ島の「チャバカノ」、「モロ」などの言語があります。これらは、方言以上の違いがあり、似通った言葉でも意味がまったく異なるなど、互いに意思の疎通を図ることができません。

したがって、共通語は英語という時代が長く続きました。そのうち、マニラを含む中部ルソン島で話されていた「タガログ語」が第二の公用語とされ、テレビ、映画などを通じて、全国に広まりました。しかしながら、地方へ行けば、それぞれの言葉が話されているのが現状です。また、一地方言語に過ぎなかった「タガログ語」が公用語になったことに対する反発感情もあり、「タガログ語」は聞いてわかるけれども話はしないという人も大勢います。

これに対して、英語はニュートラルな点で反発が少なく、いまでも、政府機関の公式文書、商取引上の契約書などには英語が使われています。一般庶民の間でも、英語が普及しており、東南アジアではシンガポールについで英語の通じやすい国になっています。しかしながら、我々に対しては英語をまくし立てる彼らも、仲間内ではすぐ「タガログ語」の会話になってしまいますので、やはり、英語は必要に応じて話しているようです。

追伸

昨日(10月6日)、フィリピンで最初の山登りをしました(馬ではなく、自分の足で)。詳細は次回に。

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