フィリピンと山あれこれ(11)

 5月10日の総選挙後、2〜3週間に渡る地域ごとの票集計、上下両院合同会議による公式集計 を経て、6月24日未明に、アロヨ氏の大統領当選が議会で正式に承認された。世界で最も長い 大統領選出としてギネスブックに登録されると噂されるほどのスローぶりであった。この間、 「開票に不正があった」と選挙無効を唱える野党政治家、「本当に勝ったのは私だ」と訴える対 立候補、反対陣営の民衆暴動や軍の反乱、テロリストの襲撃まで取りざたされて、政権の行く末 が案じられたが、最後は、与党の数の力で押し切った結果となった。 しかしながら、政権基盤の弱さは相変わらずで、イラクの「比人運転手人質事件」では、武装勢 力の要求に屈して、人道支援部隊の撤退を早めるなど、その姿勢が国際社会の批判を浴びてい る。
  (1)マクロット山・ルソン島中部(957m):1/5万図(Lipa City)その2 悪天のせいか、入口の閉まったテント脇を過ぎ、マクロット山に続く道に入ると急に背丈を増し た茅の中に踏込んでしまった。頂上は時折ガスにおおわれ、雨にぬれた茅が行く手をふさいでい る。一瞬、進むのがためらわれたが、前回、前々回と、二度に渡り頂上アタックに失敗した手 前、今回は頂上を目指そうと気合を入れる。雨具の上下を着け、茅の中を漕いでいく。踏み跡 は、左手の湖側斜面から右手の源頭部へと移り、やっとのことで、尾根上の樹林帯にたどり着く と茅の海から開放された。すぐに雨具を脱ぐが、内側は汗でびっしょりだ。ここからは傾斜も急 で、滑りやすいが、道ははっきりしている。湿った空気の中を登っていくと、右手に道が別れ、 頂上の一角に着く。低い潅木の向こうには湖を囲む山々が見渡せた。
 頂上をあとに、つるつるの山道を下る。こういった場所では、途中でひろった木の杖が頼りだ。 再度、茅の海を漕ぎ渡り、幕営地に戻ると、テントの住人が顔を出し、食事に誘ってくれる。も う食べ終ったと言って、T字路へ進むと、大勢の登山者が道脇に腰を下ろし、昼食を取ってい る。高校生程度の若い子が多く、まるで学校の集団登山のようだ。そのまま、湖岸ピークへ向か うと、こちらには誰もいない。さて、この「湖岸ピーク」であるが、吊り尾根とも言える狭い鞍 部でつながる湖に突き出した独立峰だ。吊り尾根の左右は切れ落ち、また、ピークへの登り返し は岩場となっていて、かなりの高度感がある。日本なら、鎖やロープのあるところだ。慎重に岩 場を登り、ピークの上に立つと目の前に湖が広がり、折から顔を出した太陽の光に照らされて青 色に輝く。湖から吹き上げる風も涼しく、本当に別天地だ。
 さて、すばらしい景色をあとに、下りにかかると、またまた、石ころだらけのざらざら道に足を とられる。しかたなく、木の杖を突いてよろよろ歩いていくと、下から登って来た若者たちにい たわりの言葉をかけられてしまった。こんな急な山に登ってくるような中高齢登山者はフィリピ ンにはいないようだ。しかも、最後の最後に思いっきり足をひねり、あまりの痛さに、道脇の木 のベンチに腰を下ろしていると、大きなザックを背負った4〜5人の登山者にどうしたのかと聞 かれた。無理に笑顔を作って、彼らと一緒の記念写真におさまったが、あとは、足をひきずるよ うに車へと引き返した。やっぱり、歳は取りたくないものです。
  参考までに、関連するホームページを挙げます。 @http://www.mapua.org/mitmc/trail/it_maculot.html
[コースタイム] 幕営地 10:05〜10:25−マクロット山頂上 11:00〜11:40−湖岸ピーク (幕営地) 12:20〜12:40−登山口 13:30−タンボIC 14:30−カラン バIC 14:55−マニラ 16:00(Feb.7, 2004)
(2)フィリピンのOFW さて、冒頭の「比人運転手人質事件」、フィリピンの場合、外交問題がすぐ内政に結びついてし まう特殊事情もあるが、日本も他人事とは言っていられない。
@大統領は「ゴッドマザー」 6月30日、セブ州政庁前で、アロヨ大統領の就任式が行われた。結婚式の誓いと同じで、「大 統領の職務を忠実に果たします」と聴衆の面前で誓うのだが、壇上には、大統領夫をはじめ、子 供や孫までが勢ぞろいして、偉大なる「おばあさん」の宣誓を見守っていた。以前、アロヨ大統 領は、「私は国と結婚した。これからは国民の母として政務にまい進する。」と公言したが、彼 女こそフィリピンの「ゴッドマザー」なのである。
AOFWは「国家の英雄」 フィリピンでOFWと言えば、Overseas Filipino Workers(=海外比人労働者)のことである。 彼らの海外送金はGNPの約10%を占め、本国に暮らす家族や親戚の生活を潤している。彼らの 送るドル札がペソ(=フィリピン通貨)の為替相場を安定させ、国の経済にも貢献しているとし て、アロヨ大統領はOFWを「国家の英雄」と称えている。今回の大統領選挙では、OFWにも海外 公館での在外投票が認められたが、在外投票結果はアロヨ大統領の圧勝であった。 そんなOFWの一人が人質になり、大統領に命乞いをしたのである。新聞は、故郷パンパンガ州で 夫の無事を祈る妻と8人の子供のことを、教会で祈る人々の姿を連日報道し、大統領の決断を迫 った。
B老後の面倒は誰がみる ところで、日比間で現在協議の進められている二国間自由貿易協定で、最大の焦点になっている のが、比人介護士の受入れ問題である。例によって、安い比人労働者に仕事を奪われることを恐 れる日本側の反対で、交渉は難航しているが、結局、人数を制限して受入れる方向だ。しかしな がら、深刻な高齢化を迎える日本で、介護士が不足し、介護費用が高騰することは目に見えてい る。将来、「比人介護士が老後の面倒をみる」そんな時代が来ないとも言い切れない。
追伸 よろよろになってから比人介護士に面倒をみてもらう位なら、今から、フィリピンに移住して 「第二の人生」をすごしたいと思うあなたに、一言忠告しておきます。「年金破綻、海外送金ス トップで、異国の地に野垂れ死とならないよう。自己責任で行動してください。」家族思いの OFWが日本の年金制度を支えてくれる保証は何もありません。

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