フィリピンと山あれこれ(10)


 3ヶ月に渡るフィリピンの大統領選挙も余すところあと一週間ばかり、中には息切れ(金切れ?)の目立つ候補者もあって、現職のアロヨ大統領が有利になっている。同時に行われている統一地方選挙では、選挙がらみの死者数が71人に達して、前回選挙時の死者総数を上回ったそうである。これとは別に、「選挙協力金」の名目で候補者から金を巻き上げるNPA(共産党新人民軍)の脅迫・襲撃事件も後を絶たず、連日、負傷者・死者の報道が続いている。

[注]
「選挙協力金」:NPAは総選挙の立候補者が、NPAの支配地域や影響下にある地域で選挙運動を行うためには、通称「選挙運動許可料金」を支払うように要求している。また、要求を拒んだ候補者がNPAの襲撃に合っている。協力金の相場は、州知事クラスの20万ペソ(約40万円)から市町長の5万ペソまで、すでに600万ペソを集めたともいわれている。

(1)マクロット山・ルソン島中部(957m):1/5万図(Lipa City)その1
タール湖の南東に湖に面して立つマクロット山は、アプローチの容易さ、急峻な斜面と独特の風貌、湖を望む雄大な眺めから多くの登山者を迎え入れている。ふもとの町クエンカは教会を中心に国道沿いには商店街が、山裾に向かっては住宅街が伸びている。ただし、斜面に深くえぐれた道は滑りやすく、注意が必要である。

マニラからサウスハイウェーを1時間南下し、終点のカランバで国道に移る。しばらく、町中を走り、サント・トマスから再び高速道路に乗るが、リパ市まで殺風景な景色の中を二車線だけ舗装された出来かけの道が続く。リパ市の郊外で道が途切れ、再び国道に下りると、渋滞が待っていた。空軍の基地を右手に見送り、しばらく進むと、バタンガスへ向かう国道から右に道が分かれる。このわき道に入ると、マクロット山の裾野が迫り、谷沿いの坂道を下るようになる。見通しのきかない林を抜け、立派な橋を渡ると、クエンカの町に入る。右手に見える山の方に、ハンドルを切るが、住宅地の中を抜ける狭い道にとまどう。なんとか狭い道を抜け、左手に曲がった所に、バランガイ・ホールの建物がある。ここで、名前を登録し、入山料5ペソを払う。

舗装された道がなおも続くが、これはタール湖の湖岸に出る道である。直角に曲がった道脇にある休憩所で聞くと、すぐ先を右に曲がるように教えられる。この入口がわかりにくいが、すぐに舗装がきれて、一旦沢に下り、再び急な登り坂となる。いくつか人家を過ぎると、畑の中を行くようになり、ここで車を降りる。しばらく幅のある道が続くが、道脇に仮小屋を見ると、それも途切れて林の中の山道となる。すぐに登りになるかと思うと、山裾を巻くように沢を渡る。もう一度沢状の地形に出た所で、「マニラ山岳会及びフィリピン大学」と書かれた看板に出合う。ここから、右手の沢状の道を登る。すぐに急な斜面に取り付き、一汗かかされる。ここまで来てわかったのは、登山道が、マクロット山の正面尾根ではなく、一本湖寄りの支尾根につけられていることである。山道に入って、最初に渡った沢が、正面尾根とこの支尾根を隔てている。

急登に疲れるころ、道脇に木のベンチがあり、水などが置いてあるのに出会う。少女が一人店番をしていた。さらに、登ると、こちらは少年と犬が同じように店番をしている。やがて、林も途切れ、土のむき出しになった斜面を登る。深くえぐれた道には、小石がつまり、一歩ごとにざらざら崩れる。本当に歩きにくい道だ。今日は曇っているが、日差しが強いと難儀しそうだ。そのかわり、左手には、タール湖や湖岸の森が見渡せ、涼しい風も吹いて来る。桜のような桃色をした花びらをつけた木に出合う。なんだか、ほっとする光景である。いいかげん、登りにもあきるころ、平坦なT字路に飛び出す。簡単な小屋掛けがあり、中年の夫婦が食事の支度をしている。左手には湖に突き出した小ピークがあり、大勢の登山者が群がっている。右手には草に覆われた稜線が続き、テントが並んでいる。そのテントの向こうに、マクロット山が大きくそびえていた。

[コースタイム]
マニラ 7:10−カランバIC 8:10−タンボ(リパ郊外)IC 8:40−クエンカ 9:05−登山口 9:20−幕営地 10:05 (Feb.7, 2004)

(2)フィリピンの選挙
フィリピンの総選挙は、その国民性もあってか、6年に一度の大イベントとなっている。しかも、選挙が近づくにつれ、やれ公共サービスの大盤振る舞いだ、政治集会や選挙キャンペーンへの人集めだ、選挙ポスターや投票関連用品の注文だと、金の落ちる機会も増えて、人々の心をくすぐるのである。

先日、大統領候補の一人、ビリヌエバ氏の選挙キャンペーンが、ここマカティ市の中心街で行われた。フィリピン国旗の行列を先頭に、紙ふぶきの舞う中、鳴り物入りの支援者の列が延々3時間も続き、周辺道路は大混雑であった。数%の支持率しかない最下位候補でこれだから、他は推して知るべしである。

さて、現職のアロヨ大統領も、なりふりかまわぬ選挙戦を繰り広げている。
@公共事業PR用看板
日本でも、「この道路は○○議員の尽力で建設されました」といった看板をたまに見かけるが、ここでは、道路建設の案内板は、大統領の顔写真入りで、その功績を称えるものとなっている。鉄道建設しかり、農村支援事業しかり、日本の無償援助で全国2000余りの高校に配られたパソコンの立上げ画面が大統領と担当大臣の顔写真になっていたとか。それも、選挙前のこの時期に。政府予算を使った選挙キャンペーンといわれてもしかたないし、現に野党議員から、政府予算の不正流用として訴えが出されている。
A健康保険カード
アロヨ大統領は、国民の皆保険を目ざして、健康保険の加入勧誘を進めている。これは、政策の一環として正しいのだが、地方遊説に際して、保険料一年間免除の健康カードを参加者に配っているとなると、これは、選挙目当てのばら撒きとしかいいようがない。また、ある地方では、35年間、陸軍基地の外周に住みついた不法占拠民に土地権利書を発行し、彼らの生活を安堵してやったとか。道路や鉄道の建設工事に伴い、建設用地内の不法占拠民に代替地を与える例はあるが、そのタイミングや貧困層への宣伝効果という点から、選挙対策のひとつであろう。
B大統領宮殿無料ツアー
地元選挙区の有権者を首都に招いて、国会見学となると、どこぞの国でもありそうだが、選挙民やバランガイ関係者を招待しての大統領宮殿無料ツアー、しかも、一人当たり250ペソのバイキング料理付きとなると、いくら政府の政策説明を兼ねた歴史的遺産の紹介といっても、政府予算を使っての広報活動を逸脱している。しかも、選挙戦終盤の4月以降は、連日、朝昼晩と一日千人以上の参加者をこなしているとは何をかいわんやである。

さて、選挙はまだ終わったわけではない。このあと、買票行為の横行、投票数の水増し、果てはNPAによる投票箱の強奪と、左右入り乱れての混戦があり、手作業による開票と集計が約3週間も続くのである。

追伸
フィリピンを知る上で、大変参考になるサイトを見つけました。でも、ここまで言っちゃっていいのかな。
http://www.interq.or.jp/boy/hane/yomoyama.htm

ライン